生きていてほしい人が死んだ時が人生の分かれ目なのかもしれない。

人の死に方は三者三様だ。殺されるか、自死するか、たまたま死んでしまうか。殺され方にもいろいろある。自死する方法もしかり。でもどうして人は死ぬんだ?死にたくないなら、死にたくないようにしてくれたらいいのに。それなら誰かが誰かを憎むことだってなかった。彼だって、あんな場所で死なずに済んだかもしれないのに。


(相変わらずネタバレばんばんしながら書きなぐっています。あと訳分からんままべらぼうに書いてる。そして多分まあ長い。)




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映画「あゝ、荒野」を見に行くということで主演のヤン・イクチュンさんが話題の映画「息もできない」を深夜に見た。思えば初めて、とでも言っては過言ではない、外国語放送日本語字幕。最初は罵倒する言葉にさえ「??」と感情移入しにくかったのだけれど、最後まで見てようやく分かった。やはりその映画の言語で見た方がいいに越したことはない。字幕はあまり好きじゃなかったのだけれど、これは良かった。



ヤンさんが演じるのは主人公のキム・サンフン。丸刈りで見た目はほんとにただのチンピラ。しかも出てきて早々人を殴る蹴る殴る蹴る。女にもちゃんとビンタする。タバコもめちゃめちゃに吸うし口も悪い。でも根はいい人。でも殴る。でもいい人。みたいなのがグルグルしてた。とにかく不器用。優しさもちゃんと持ってるのに、それをうまく使いこなせない男。


そしてそんな彼の前にひょっこり現れるのが高校生の女の子、ハン・ヨニ。金をせびってくる口うるさい(始めは兄かと思っていたが弟と判明した時はびっくりした)弟と母が死んだことを受け入れられない父を持つ長女だ。家ではそんな二人にストレスを抱えていて、でも口もしっかり達者で。きっと生きてる内に達者にならざるをえなかったんだろうな。とにかく芯からまっすぐ強い女の子。


他にもいろいろ甥とかサンフンの姉とかでてくるのだけど、ヤンさんがでてる、という前情報だけで見た自分は初めこの二人のラブストーリーかなんかなのかな、と思った。だけれどそんな甘いものはそこには存在していなかった。ああこれはサンフンの、不器用な男の一生を見せられてるんだ、と思った。その中に彼ら二人のストーリーがあっただけのこと。ヨニはサンフンにただ出会い、話し、飲み食いし、少し寄り添いあって愛を育みあっただけの登場人物であるだけ。それ以上でも以下でもない。




結論から言うと、私は素直に泣きました。とにかく泣きまくった。なんでここまでサンフンの人生っていうのは不器用なのかな、ほかの生き方はできなかったんだろうか、って。

父親がDVの延長みたいな形で母親を殺して、それを15年間ずーっと憎み続けて、出所しても許せなくて、でもいざ父が死のうとしてたら「生きろ!」って結局は生きてほしいって思ってて、そしてその結果父は生きて、そしたらサンフンは殺されて。世の中にこれほど理不尽なことはないだろうってくらい悲しかった。死なないでってすごく、すごく思った。


でも、結局蛙の子は蛙だったんですよね。それまでサンフンがやっていたことも結局は父親と変わらない、同じことをただ繰り返してるだけなんだーって思った時が一番苦しかった。

暴力は連鎖していくものでしかなくて、それを止めるすべはどこにもない。人間にも社会にも、そんな力はない。暴力を見てきたものは暴力でしか生きられない。だからハンソンは殺されたし、ラストシーンでユニちゃんの弟にハンソンが重なったんだと思う。あのシーンのユニちゃんの表情には胸が詰まる思いがした。弟の姿に何を思ったのか。何を悟ったのか。あのあと、どうなったのか。想像がぐるぐる駆け出していきそうなシーンだった。



そのシーンにもセリフはなかったのだけれど、全体的に思い出せるセリフが今までに見てきたどの映画よりも極端に少なく感じた。メモをして見ていたにも関わらず本当に少ない。頭の中に思い浮かぶのは殴ってるシーンとか表情とか風景とか。強烈にこれ!!というセリフがほとんど無い。不思議。無音でも泣けちゃうんじゃないかなこの映画。なんというか、……んーなんとも言い難い(おい)。ほんとに自分でもよく分からないのがうーん、悔しい。印象に残ったセリフは?と聞かれるより印象に残ったシーンは?って聞かれた方があーだこーだ答えられる気がする。

セリフ一つ一つはちっぽけで小さい。なのにここまで惹き込まれたのはやはりヤンさんのおかげなんだろうな。あとヨニちゃん役の子もすごく良かった。目とか雰囲気が。特に目が、あれはいい。なんていうか、とにかく目がいいなと思う。





結局、『息もできな』かったのはハンソンだったんだろうな。父が母を殺して、それをずーっとひたすら恨み続けて、それを許したわけじゃなかっただろうけど一歩、ほんの一歩、踏み出せた気がした。でも、そう思った途端に死んでしまった。結局、ハンソンは生きたかった人生を生きられなかったんだと思う。『息もできない』人生を、歩んできてしまった。苦しい人生だった。


でも甥のヒョンソンとのシーンや、ヨニちゃんと3人で買い物してたシーン。あの無音の時だけは、あの時だけはハンソンもちゃんと、地に足つけて生きてたんだと思いたい。




人混みをかき分け見える彼らはあまりにも幸せそうで、眩しかったから。

2人でいる時だけ、泣けた。見終わってからのこの言葉の重みが凄まじい。