愛しくって、めんどくさい。映画『ぼんとリンちゃん』感想 (ねたばれあり)

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ストーリー

女子大生のぼん(佐倉絵麻)と浪人生のリン(高杉真宙)は幼なじみでBL(ボーイズ・ラブ)の同人誌やアニメ、ゲームが好きないわゆるオタクだ。同じくBL好きで親友のみゆ(比嘉梨乃)は東京にいる彼氏のもとに行ったきり連絡がつかない。ぼんとリンちゃんはみゆちゃんを連れ戻すべく、協力者・べび(桃月庵白酒)を巻き込み、救出作戦を決行する。


オタクの話を映画化したりドラマ化したりしているのを見ると大体、「あーこれは各方面のオタクの方から怒られんじゃねえかなあ、いやオタクってこう、もっとオタクなんじゃないの……?」と勝手にオタクならではの独自な世界観みたいなものをほしがってしまうんだけど、これはほんとに現世界にもいそうなオタクの話だった。長回しがそれをさらにリアルにさせてくれているんだと思う。しかもオタクをただ単にフューチャーさせているのではなく、それを込みとした友情とか哲学的な問いとか、色々考え直させてくれるストーリーが展開されていて、そこがすごく好き。オタクがどういう人を定義するのかとか今はどうでもいいから、オタクの人も、そうじゃない人も見てほしい映画です。長回しが予想以上に面白い。


BLおたくではないから前半の話には全く着いていけなかった(というか大半がそうだった)けど、それでも飽きが来ず見続けられたのはいろんな意味でリンちゃん役の高杉真宙の存在のおかげだと思う。

もちろん、ぼん役の佐倉絵麻もかなりいい存在感を持っているし、それを使いこなして見る側にしっかり感じさせてくれる。長回しにおけるセリフ量も尋常じゃなく、しかもそれを早口で話し続ける演技力もかなりのもの。しかもビジュアルが絶妙に可愛い(と自分は思った)。大半はおそらく彼女が話しているし。

それでもリンちゃんがとっにかく可愛い。もう誰がなんと言おうともあれは可愛い生物。高杉くん、17か18そこらだと思うけど、もそもそ喋る感じとか、弱々しいか弱い感じとか、いやらしさを全く1ミリも感じさせない雰囲気とか、とりあえず全部をひっくるめて、すごくいい。そしてすごくいそう。もう一度言うけど彼は当時10代だ。そんなことがあっていいのかと思うけど10代。いやそりゃ新人賞受賞するわ……(第36回 ヨコハマ映画祭 最優秀新人賞受賞) 。その当時の記事がなかったので舞台挨拶時の記事を載せておく。まひろきゅんかわいい。


m.cinematoday.jp


気を取り直して。

リンちゃんはぼんと違って周りが見えているタイプのオタクなんだろう。ぼんにボロクソに言われるべびちゃんをフォローしながら、「彼女が我慢すればいいだけのことなのに」と愚痴をこぼすシーンがある。本当は心の中でそう思っているけど、その後それを口にすることなくぼんに着いていく。そして、ぼんがみゆちゃんと言い争いをするシーンでは一言も発さない。ぼんが人の波に負けずに、時にはぶつかりながら進んでいく中をリンちゃんはその後ろからそっと着いていく。ある意味、リンちゃんも自分の志は曲げずにぼんの側にいるわけだ。例えぼんが間違った行動をしようとも、ぼんがそれに対して「間違っていない。私はこうしたい」と言うのなら、きっとリンちゃんはまたそっと一歩下がった後ろから着いていくんだろう。姉ちゃんだから。リンちゃんにとってぼんは。



自分の信念を持つことは確かに大事で、そしてそれを押し通そうとするのにはかなりの勇気が必要になる。でもその限りある勇気を振り絞ったとしても、歩み寄れない人はいる。個人の正義なんて薄っぺらいものだから。生きる世界が違うとか、言葉がそもそも届かないとかで正義なんてものは儚く消えていく。


「なんかわからないものを自分のモノにしたい。わからないことをわかるようになりたいの」


それでもぼんは最後にこう叫ぶ。ぼんはまだ、みゆと向き合うことを恐れてはいない。まだぶつかっていたい。まだ、自分が正しいと思っている。人の受け売りなんかじゃない、これは自分の言葉で自分の正義なのだからと。彼女をわかりたい、でもわからない。


そこがまたひどく痛々しい。もう手を引けばいいのに、ぼんはどこまでも真っ直ぐだ。考えなくてもいいことまで考えて、結局こっちにノーとは言わせてくれないのだろ、と言うくらいの強い精神力。そこまでくるともう愛らしくも感じる。負けた。負けてしまった。リンちゃんの最後のため息には、大いに賛同しよう。彼女には、叶わない。